【感想】 映画「心が叫びたがってるんだ。」を見て泣いた話。
「あの花」スタッフが再び集結、新作の青春群像劇が映画で公開!…だそうなので、近くのMOVIXで本日観てきました。
想定とは違う方向で、すごく考えさせられた、いい映画だったと思うので、備忘までに書く。
前印象
「ここさけ」という愛称とともに、ローソンや明治とコラボする等、最近あちこちで見かけるので、結構力を入れているのだと思うけど。アニメ映画だということもあってか、行ったのが地方だからか、客の入りはまあまあ程度。
ストーリー
物語は、主人公の女の子の幼少期から始まる。何気ない一言が、大きな出来事へと繋がり、ある変わった経緯で、言葉を喋ることがほぼできなくなってしまう。
年は過ぎ、彼女の通う高校のクラスで、地域交流会の出し物をやることになった。実行委員は彼女・成瀬、人当たりはいいがどこか飄々としている坂上、チアリーダー部で優等生の仁藤、甲子園の夢が破れたばかりの田崎。
タイプも方向性もばらばらの4人が、ほとんど話せない成瀬を中心に、クラスや周囲の人も巻き込んでどう変わっていくのか。を描いた青春ドラマ。
全体への感想
とりあえず、全体への感想を箇条書き。
・大きな出来事はないけれど、話が過不足なく、とてもきれいに纏まっていて見やすかった。前情報や公式サイトを見て、期待して行って外れない作品だと思う。
・展開は、あらすじから想像されるとおり。王道といえば王道だけど、全体に爽やかで穏やかな感じなのでいいと思う。
・主人公の声、しぐさがとてもかわいい。前半は喋らないけれど、実は感情豊かで空想癖もあってという子なので、あの花のめんまが好きな人はきっと彼女にもきゅんきゅんするはず。その他のキャラも、好感が持てるし今後が気になる。
・背景が手が込んでいてきれい。田舎の風景ばかりだけど、身の回りにあったら写メってスマホの待受にしたくなるような、味のある感じ。
・あの花の脇役キャラのカメオ出演(?)があって嬉しかった。ファンの方はぜひ探してみてください。
・音楽は映画に溶け込みすぎてあまり印象に残っていないのだけど、ラストのAKBの曲は、作品のことをほとんど伝えずに依頼したのが丸わかりでもやっとした。せっかくのコラボがもったいない。
・エンドロールにレイカズンの名前があったのにびっくり。出てきた女子たちの私服はテイストがまるで違うので監修してないと思われる。Tシャツ販売とかあるんですね。
感じたこと
この作品のロゴをよく見てみると、小さく副題がついている。
「Beautiful Word、Beautiful World」。
順は自分のいいたいことを伝えるのに、携帯でメールするという迂遠な手段を取る。*1
そもそも、物理的に会話が難しい方の場合は最初から、筆談や手話などによって、周囲とコミュニケーションを取ると思う。でも、順は今まで、「自分の気持ちや考えを伝えること」を忌避し、コミュニケーション自体を避けていた。
何も言わないほうがいい。たとえ悪意がなくても、自分の言葉は誰をいつ傷つけるかわからない。
有栖川有栖の小説シリーズで、主人公の心の傷になっている出来事を思い出した。確か、勇気を奮って意中の人に告白してからまもなく、その人は自殺した、という話だったと思う。
彼の告白が、彼女の心にどう作用したのかは分からない。ただ、取るに足らないものだったにせよ、暗い方向へ押し流すものだったにせよ、それは良い方向には働かなかった。
「勇気を出して告白してみればいい、好かれて悪い気のする人はいないから」という一般論はあくまで、一般論でしかない。言われた相手がどう思うかなんて分からない。
勇気を出して言ったから、悪意なく言ったことだから、世間で悪いことだとされていないから。それはエクスキューズにはならない(と当事者が感じる)こともある。少なくとも、その結果で自分も傷つくことは十分にある。
言葉は、怖い。
行動することも、怖い。
それでも順は叫ぶ。母親から逃げてきた夜のコンビニの前で、級友が喧嘩しているファミレスで、出ない声をふりしぼる。
その声は、清冽で必死で、人の心を打つけれど。たぶん、自分が感銘をうけたのはそのあと、後半の部分だと思う。
中盤では、メールで級友に話しかける順。内容は「ありがとう」「すごい」というようなポジティブなものばかりで、明るい表情とともに見せてくる。ちなみに敬語を使っている。
そして、クライマックス。
殻を割って話せるようになった順は、人に迷惑をかけかねない(既にかけている気もする)行動を取り、汚い感情をあらわす言葉を相手にぶつける。敬語はどこへ行った、清純派キャラじゃなかったのか、と問いかけたくなるほど。
そんなもんだよね。本音なんて、汚くてあたりまえ。
でも相変わらず、清冽で、必死で、ある意味可愛くなくなったけどあいかわらず可愛い子でした。
「Beautiful Word、Beautiful World」。
等身大の本音の言葉こそが、『Beautiful Word』である、というメッセージを感じたのだけれど間違っていたらごめんなさい。
というわけで、「コイツはどこに感動して泣いたんだ」ということが気になって読んでくれた人には、「順ちゃんが叫んでいる場面全部」ということをお伝えしておきます。
水瀬いのりさんの追っかけになるかもしれない…。
もやっとした点
そもそも普段アニメをあまり見ないので何ともいえないけれど、「あの花」では、今まで見てきたアニメには珍しく、周囲の大人がきちんと描かれていたと思う。ニートの息子に何も聞いてこないけど、動向は逐一把握しているじんたんのお父さん。亡くなった娘の友達に最初はにこやかに接するも、感情が抑えきれなくなるめんまのお母さん。それを支えてやり直そうとするお父さん、など。
それが「ここさけ」においては、順の両親がテンプレの「理解のない親」になっている。詳しくはネタバレになるので避けるけれど、描写の丁寧さがこの作品の良いところなので、なんだかそこだけ浮いている気がした。
あと、みんな順ちゃんに甘いなあ、と…。まあ、天使のように可愛いから仕方ないけど、作品の雰囲気からしてもSF(すこしふしぎ)。
尺とか構成とか、自分のわからない高度な計算が色々あるとは思うのだけど、そこは意図してやっているのかどうかが気になった。
最後に
他のメンバーの背景も、ひととおり説明はされていたけど、やはり2時間では限界がある。だから、レビュー等で多かった、「うまくまとまっているけど感涙するまでいかない」という感想になる。もっと色々、今後の4人がつるんで行動するエピソード等も見てみたいと思う。
ということで、この映画をもとにした1クールアニメ、または続編の映画を期待したいと思います。とりあえず、興行収入がうまくいって、盛り上がったらいいな。
そういえば、劇場でもらったチラシが、順たちがやった交流イベントの劇のちらしになっている。こういう遊び心はすごく好き。